No.01 犬猫の栄養について

最近は食塩の減量が流行のように言われ、ついでに犬猫にも減塩のお供をさせられている感がある。犬猫の専門家と言われている人からもよく聞く。
これでよいのだろうか?
犬はオオカミに近い子孫、猫はライオンやトラなどの一族。彼らは倒した獲物の、血のしたたる肉や内臓が主食。その血液には塩分が多く含まれており、常に塩分を含む餌を食べている。人間はチンパンジーなどと近縁で、穀物や果物が主食。人は犬猫とは食べ物が違うとともに塩分量も違う。

人間の塩分量については色々な論議があるが、犬猫の食塩要求量を科学的に示した本は日本には乏しい。世界の基準とされているのは、アメリカ国立科学アカデミー発行の「犬の栄養要求量」に記載されているもの。
この本は発行されて直ちに日本獣医師会が翻訳して希望者に配布されたが、栄養学ということで申し込みは多くはなかったようだ。この本が普及していれば、犬猫の塩分についての正しい議論がなされていたのではなかろうか。
これによれば犬の食塩要求量は1日体重1キロ当たり0.242グラム。猫はこれよりも多い。これに対し人は0.15グラム、馬は0.1グラムとある。犬の塩分必要量は人の約1.5倍となり、猫はさらに多い。つまり肉食動物ほど塩分要求量が多いことを示している。

私は20年前、食塩(NaCI)と胃液(HCI)の酸度と消化力の関係を犬猫130匹について3ヶ月継続測定をした。その結果塩分を多く与えたグループの胃液の酸度が高く、消化力も強い、つまり食塩量と胃液の酸度と消化力は深い関係にあることがわかった。ところが摂取された食塩の血液内の濃度を獣医学書で見出せず、論文にすることができないまま、この問題から長いこと遠ざかってままになっていた。

ところが犬猫の塩分の血液内濃度の数値がアメリカ系の血液検査機の成績表に明記されていたことを最近知った。「脚下照覧」、探求が足りなかった。専門的になったが、要するに肉食動物である犬猫は人よりも多くの塩分を必要とするということである。
人などの草食動物は塩分が不足すると体内の「塩分欲求機構」が働いて食塩を自ら求めようとする。放牧の牛馬が人間に近寄ってくるのもその現れである。ところが肉食動物には「塩分欲求機構」がない。もともと塩分の多い血液たっぷりの生肉を食べているのだから「塩分欲求機構」を必要としなかったからだ。

その結果、塩分を多量に必要とする犬猫が、塩分不足を感知することができず、いろいろな障害を引き起こすことになる。人間の塩分規制の流行につきあわされている犬猫はかわいそうである。これは私たち獣医師の責任でもある。
20年前の測定をもっと進めていたら、こうしたことは明らかになっていたと思うと、獣医師として慙愧(ざんき)に堪えない。




 私がお世話になっている、別府市の獣医学博士・木原滋陽獣医師(木原犬猫病院)
 のコラムです。犬や猫の健康について、とてもわかりやすく書かれています。
 記載されている記事は木原獣医師の了解のもとホームページに掲載しています。
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